一本釣り漁法
1〜2人乗りの小型船(2〜4t)で餌を付けたナイロンコード製の釣り糸(直径3mm)を50〜100mほど後方に流し、海面に近いマグロを狙い、電動式巻揚機で巻き上げ最後に両手で引き上げる。
1本釣り漁は延縄漁のように新鋭の設備がないので、人間つまり漁師の技量に負うところが大きく、この漁法の代表的なところでは言わずと知れた大間(青森)、最近頭角を現わしている三厩(青森)が有名。
小型マグロで1時間、大型(200キロ)だと 2時間ぐらい格闘して、マグロが弱くなったことを見計らって海面まで上げ脊髄神経を殺した後、小型は船上に上げ、大型は重量があるので、首にロープを通して舷梯に固定し、曳航して港まで持ち帰る。
ただ帰港するまでの間に体温の上昇や、時には波間に体があたることによって打ち身や血栓の原因にもなるし、帰港後、血抜き→神経抜き→内臓処理→マグロの冷やし込みの処理に時間がかかり過ぎると、これも”焼け”の要因にもなる。
魚を一匹ずつ釣り上げる漁法なので、取り扱い方が丁寧ですが、捕獲するのに時間がかかり過ぎると身に”ヤケ”などを起こします。
ただ最近はビジネスにもなるので、一攫千金を狙って熟練した漁師に交じり、新興の漁師の参入も見受けられる。
結果して”焼け”のマグロも多いし、逆に”焼け”がこわいので釣り上げた、漁船名や漁師名を特定して競り落とすこともある。
定置網漁法
決まった場所へ回遊してくる魚の習性を利用し、一定の水面に固定して網を半日〜1日仕掛け誘導し獲る漁法。
この漁法の代表的なところでは佐渡産(新潟)/大船渡(岩手)/気仙沼(岩手)/氷見(富山)が挙げられる、サラッとした脂質でそれなりに旨い。
巻き網漁法ほどではないがこちらも迅速な処理ができず、身焼け、褐色が多く、市場に出回ってからは2〜3日までに食べると旨い。それ以上になると酸化と褐色がすすむ。
巻網漁法(まきあみ)
機動性のある漁船で魚群を長方形状の網で取り巻き、それから網を徐々に狭めて、袋状にして一挙に獲る非常に効率のよい漁法。
この漁法の代表的なところでは境港(鳥取)/塩釜(宮城)/三陸(宮城)が挙げられる。
通常本マグロを単独で漁する巻網船はほとんど無く、鰹、鰯、サンマ等を獲っている漁船が、漁場で並行してマグロ漁も行うため、マグロを迅速に処理する設備は設置していない。
加えて大量に漁獲するため、暴れて網に巻きついたりしてマグロへのショックが大きく、身質の劣化が起こりやすい。同様に血抜き、神経抜きの処理もしないため、身焼け、身割れ、鮮度劣化したものが多く、
特に血 抜きをしていないため、酸化と変色が早く、市場での評価は低い。
すでにマグロ自身熟成しているので市場に入荷した即時に食べるのが一番旨い。
延縄漁法(はえなわ)
日本で考案された漁法で、海の中層の回遊するまぐろを捕獲します。 その仕掛けは、運動会のパン食い競争と似ています。
この漁法の代表的なところでは戸井(北海道)/大間(青森)、冷凍物では本マグロ/メバチマグロ/ミナミマグロなど
【近海本鮪の場合】
1000〜3000メートルに渡り幹縄を流し、100〜400本の針を吊るして餌(イカ)を付け、2〜24時間仕掛けたのち、海の底面近くのマグロを引き上げる。
延縄漁は、漁船に処理設備が搭載され、迅速で的確な処理が施されるため、身質の鮮度維持には一番適しています。
戸井の場合はすべて延縄漁だが、最近大間でも戸井の影響を受けて1本釣り(90隻〜120隻)にかわり、徐々に延縄漁(40隻〜60隻)も増加傾向にある。
【冷凍物の場合】
船尾から"幹縄(みきなわ)"を流し、これが沈まないよう400メートルごとに"浮縄(うけなわ)"につないだ浮きを投げ入れていきます。"浮縄"から"浮縄"までを"一鉢"と呼び、"一鉢"ごとに、"幹縄"からから七本の"枝縄"を垂らします。30メートルの"枝縄"の先端に、6cmほどの釣り針がついています。その針に、冷凍のイカ、サバ、サンマ、イワシなどのエサをつけ
10.5ノット(時速20キロ)の全速力で"延縄セット"が海に投げられていくのです。釣り針の数は、2700本長さは、約100kmにも及びます。
5時間を要する投縄作業。そして船を止めて待つこと4時間。そして縄を揚げ終わるのは、13時間後である。1回の投縄にかかるまぐろは、40〜50本。そして船上に揚げられたまぐろは、とにかく素早く処理されます。これはバタバタと暴れるのを防ぐため、まず尾を切り落とします。次にエラを切って血を抜き、頭を刺して体温が上昇しないように〆処理をします。
そして、内臓をとれば完璧。よく水で洗い、目方を量り、血抜きのため頭を下にしてフックに掛けて、そしてマイナス60度の冷凍庫に入れます。魚体の中心まで凍らせるのに大きさにもよりますが、約30時間ぐらいです。ここで単純に延縄でも最初と最後に引き上げられたまぐろ時間差が13時間あるわけで、その間に針に掛かったままで、ここに鮮度の差が出てきます。
まぐろは他の魚と違ってエラ呼吸する魚ではありません。いつも口を半開きにして勢いよく泳ぎ続け、海水をエラに流し込んで酸素を吸入する。
釣り針に掛かると、暴れ回ったり死んだりして体温が上昇し、身が焼けて黒くなるので、どれだけ早く処理するか否かにかかってくるのです。
まぐろの熟成
多くの食肉は熟成することによって肉が柔らかくなり、旨み、香りが加味され、味わい深くなります。
マグロの場合も同意味ですが、すべてのマグロに該当する言葉ではなく、あくまでも近海本マグロの鮮度の良いマグロに限定した言葉ではないでしょうか。
たまに冷凍でも熟成なんて使っていますが、冷凍の場合は1〜2日で十分でしょう。それ以上経つとトロの部位なんかは脂が回って生臭さと脂臭さを感じる時がありますから、熟成は酸素にふれたり、温度変化により早くもなり遅くもなります。
我々も寿司屋さんもそうですが熟成を鈍化させるために氷蔵冷蔵しますが、あれは温度を低くすることにより熟成を遅らせてマグロを長持ちさせます。近海本マグロでも中型サイズの定置網で獲れたものは、1日〜2日寝かせば食べ頃ですが、逆に大型サイズの良質なモノは10〜14日間ぐらいは持つので、その期間内でトロ、赤身と色々な味わい方をします。
そこに大型近海本マグロの魅力がありそして重宝され高価で取引されるわけです。
その味わい方ですが熟成、熟成というが、ただ熟成させればいいってものでもないようです。
特に縮れた(若い)赤身は新鮮な香りが漂うし、ズケにすると煮きりをスッと吸って旨い、また熟成が進むと旨みがでてきますし、トロの場合は脂でエイジングされ甘味がでてきます。
マグロの旨さって結局、香り、酸味、甘味になります。香りと酸味は新鮮さの証ですが、甘味は熟成にしたがってでてくるものです。
上身と下身
まぐろは水揚げ後、ずっと同じ向きで寝ているので最初に置いた時に下になった身を"下身"、上側を"上身"と呼ぶが、上身の方価値が高い。
味自身は上身でも下身でも変わらないが、下身は上身の重さを受ける分だけ鮮度が落ちると共に身割れを起こす事が考えられるからである。また頭の方から順に上、中、下と呼びます。
コンャク
身がコンニャクみたいにプリプリで全く味がない。
チヂレ・イカリ
身が若く、活かって縮むマグロのことを指しますが、実は死後硬直のことを意味します。生マグロは数日かけてこの現象を起こしますが、冷凍マグロは解凍中に一気に行われるので、激しいチジミがみられ、同時にイノシン酸も増える。
ヤケ(焼け)
自分で自分を煮てしまうようなもので、身が茶褐色に変色する。マグロは獲った時に、バタバタ暴れて体温が約50℃に上昇し、まぐろ独特の赤色が、くすんだり黒くなったりする。食べてもおいしくない。
かまとろ
えら付近の三角形部分で、牛肉みたいな霜降りで、見た目にも艶やかである。 若干スジが硬いが、脂ののりは、一番で一尾のまぐろから二つしか取れません。薄く切って刺身にするのもよし、にぎり、焼きにぎり、網焼きなどの料理法
皮ぎし
大とろの皮をはずした白い脂肪の部分。
かま
1本のマグロから左右2個しかとれない部位、焼いて食べるのが定番。
中落ち
背骨の回りに付いている赤身でやわらかく旨い。マグロ総重量の1%しかとれない貴重なマグロ。
カジキずり
カジキマグロの腹側の部分で、ねぎま、つけ焼き、バター焼き、照り焼き、味噌漬けなどが美味しいです。
頭肉(脳天)
マグロの頭の骨の中に少量しかついていない身で、4本の身がとれます。真中2本が大きく、端2本は小さい。
背の一番上の部分に当たります。本まぐろやインドまぐろの頭は脂があり人気がありますが、メバチやキハダはあまり脂が無いので人気がありません。
メジマグロ(幼魚)
本まぐろの幼魚で、11月上旬境港で水揚げされる5kg前後は「小メジ」、11月下旬に佐渡や氷見の10kg前後の「中メジ」は結構旨い。そして12月〜2月の20kg前後は「大メジ」と呼ぶ。
チュウボウ(中鮪)
本まぐろの40kg前後の呼称。5月〜7月にかけて三陸などで水揚げされる。
シビマグロ(大型鮪)
通常100kg以上のマグロの呼称。春マグロの宮崎産(油津、川南、日南)/和歌山産(勝浦)、晩秋の青森産(大間、三厩、竜飛崎)/北海道産(戸井、松前)など。
ビンチョウ(ビンナガ・トンボ)
胸ビレが人の頭の左右の髪である鬢(ビン)にたとえられ、それが長いことからなづけられました。 以前は、加工用やシーチキンの原料でありましたが、最近は回転寿司などの寿司ネタとして定着しています。
冷凍焼け
冷凍のマグロが温かい空気に触れて、表面の氷の一部が水蒸気となって失われ、乾燥して白っぽくなる現象。もちろん味も風味も悪くなる。
霜降り
大トロの中でもカミの部分。つまりカマトロ辺りの指し、牛肉のようなサシが入っている。細かい脂が霜が降りたようになっている部分。
サク(柵)
長方形の板状になった刺身にしやすい形状になったもの。
ズケ
もとの語源は、生魚を醤油や酢につけた料理法で防腐的な効果があり、明治時代までは隆盛で、現在のようにマグロだけを指す言葉ではありませんでした。しかし寿司ネタとして人気が高まるにつれて、マグロの代名詞になりました。
蛇腹
筋状の脂の入った部分。